15年かけて育ててきた、ここにしかない音楽
「京都しんふぉにえった」代表・小田拓也さんインタビュー
京都市呉竹文化センターの恒例公演として親しまれてきた「ちょっと素敵な朝からクラシック」は、今年で15周年を迎えました。
京都市交響楽団のメンバー9名によるアンサンブル「京都しんふぉにえった」が、聴きなじみのある名曲を中心にオリジナルアレンジでお届けするこのコンサート。朝のひとときを気軽に音楽とともに過ごせるのはもちろん、演奏者一人ひとりの個性を間近に感じられる華やかな演奏と、親しみやすいトークも大きな魅力です。
今回は、「京都しんふぉにえった」の代表を務め、すべての楽曲の編曲を手掛ける小田拓也さんに、アンサンブル結成のきっかけや15年間の歩み、お客様との思い出、そして次回12月9日(水)開催の「アレンジで贈るロマンティック・クリスマス!」の聴きどころを伺いました。

音楽に触れる人を、少しでも増やしたい
――まず、「京都しんふぉにえった」を結成されたきっかけを教えてください。
活動の始まりは、2008年頃にさかのぼります。当時、私の子どもがまだ幼く、子どもたちと音楽との関わりについて考える機会が多くありました。2008年といえば、リーマン・ショックが起こった年です。景気が悪化し、楽器を習う人が減ったり、子どもの習い事にお金をかけることが難しくなったりしているという話を耳にするようになりました。
そんな状況の中で、私たち音楽家から発信できることはないだろうか、音楽に興味を持つ人や、楽器を演奏する人を少しでも増やせないだろうかと考えるようになりました。ちょうどその頃、幼稚園でのコンサートを企画しないかというお話をいただきました。それなら、京都市内の幼稚園を回ってみようということで、活動が始まりました。その後、障がい者施設などからもお声掛けいただき、京都市内だけでなく、遠方まで演奏に出掛けるようになりました。京丹波で朝9時台から演奏したこともあります。西宮方面から来るメンバーは、朝5時頃に家を出て、京都駅に集合して、そこからみんなで移動していました。今振り返っても、本当に朝が早かったですね。
朝の活動と、平日のホールの課題が結びついた
――そうした活動が、「朝からクラシック」につながったのでしょうか。
幼稚園や施設での公演は、朝の時間帯に行われることが多かったんです。準備などを考えると演奏者にとっては大変な面もありますが、こうした経験を生かして、一般のお客様にも気軽に楽しんでいただけるコンサートができないだろうかと、財団本部にお話ししました。
すると、当時の担当職員(現・呉竹文化センター館長)から、「平日のホールの稼働率を上げる方法を考えていたので、平日の朝に開催してみましょう」と言っていただきました。朝の公演にどれだけお客様が来てくださるのかという不安はありましたが、私たちの活動と文化会館が抱えていた課題が、うまく結びついたんです。それが「ちょっと素敵な朝からクラシック」の始まりです。
当初は、大人向けの公演と子ども向けの公演の二本立てで、年間3回のうち、2回を大人向け、1回を子ども向けとして開催していました。
子ども向けの公演では、演奏者がずっと高いテンションを保ち、何か面白いことをしなければならないのではないか、かぶりものも必要なのではないかと、こちらが勝手に思い込んでいたところもありました。
ところが実際には、子どもたちに分かる言葉で丁寧に話せば、特別な演出をしなくても音楽はきちんと伝わることが分かりました。ただ、午前中は多くの子どもたちが幼稚園や学校に行っている時間です。一般のお客様に来ていただく公演としては、集客が難しい部分もあり、次第に大人向けの公演になっていきました。
最初は主婦層を主な対象として想定していましたが、実際にはシニア世代のお客様が多くなりました。仕事を退職し、新しい趣味を始めようとしている方にとって、クラシック音楽に触れる入口のようなコンサートになったのかもしれません。

9種類の楽器がそろって生まれた、独自の編成
――現在の9名という編成は、どのように決まったのでしょうか。
幼稚園で「どんなコンサートが聴きたいですか」と尋ねたところ、「見た目にも華やかな楽器」「見たことがある、分かりやすい楽器を取り入れてほしい」というご希望がありました。
そこで、クラリネットやトランペットなど、音や姿に特徴があり、子どもたちにも親しみやすい楽器を入れることになりました。しかし、それだけではアンサンブルとして音楽を構成することができません。中低音域を支える弦楽器や管楽器、さらにリズムを担う打楽器も必要です。どの音域をどの楽器が担うのかを考え、演奏に最低限必要な楽器を一つずつ集めていった結果、現在の9名の編成になりました。
最初に声を掛けたメンバーの中には、当時、自分自身にも小さな子どもがいて、子どもたちに向けた活動に情熱を持っている人もいました。この活動を続けるためには、「音楽に興味を持つ人を増やしたい」という思いに共感してもらうことが大切でした。私の編曲した楽譜を演奏することも含めて、活動の目的を理解し、協力してくれる人に少しずつ声を掛けて、アンサンブルをつくっていきました。
すべての楽譜が、この9人のために書かれている
――「京都しんふぉにえった」は、どのようなアンサンブルですか。
結成当初から、「他には真似のできないアンサンブルにしよう」という思いがありました。一般的な編成とは異なるため、この9人で演奏できる既成の楽譜は、ほとんどありません。演奏する楽曲は、すべてこの編成のために私がアレンジしています。音楽に詳しい方からは、「この編成なら、すべての曲を編曲しなければならないということですね」と言われることがあります。分かる方には、この編成の特殊さがすぐに伝わるんですね。
クラシック音楽を基本にしながらも、少し軽やかで親しみやすく聴いていただけるものを目指しています。ただし、単に易しくしているわけではありません。
楽譜を渡したときに、メンバーから「どうして私のパートにこれを書くんですか(笑)」と言われることもあります。でも、皆さんプロの演奏家ですから、舞台でスポットライトを浴び、自分の音をお客様に届けることに、大きな喜びを持っています。もちろん、難しい部分に挑む怖さやプレッシャーもあります。それでも、そこを乗り越えて自分の音が前に出る瞬間は、演奏家にとって心地よいものだと思うんです。
編曲は、それぞれの奏者を生かすための「台本」
――編曲するときに、大切にしていることはありますか。
楽曲の中で、できるだけそれぞれの奏者にスポットが当たるように心掛けています。すべての曲で全員を均等に目立たせるということではありませんが、ある曲ではこの楽器、別の曲ではあの奏者というように、それぞれの持ち味を引き出したいと思っています。
編曲した楽譜は、いわば舞台の「台本」です。誰がどこで前に出て、どのような場面をつくり、次の楽器へどうつないでいくのか。プロデューサーのような視点も持ちながら、全体を組み立てています。
長く通ってくださっているお客様から、「今回は、あの方にあまりスポットが当たっていませんでしたね」と言われることもあります。演奏だけでなく、誰がどこで活躍していたかまで、よく見てくださっているんです。お客様がメンバー一人ひとりを身近に感じてくださっていることが伝わり、とてもありがたく思います。

知っている曲を、どう面白く、どう変化させるか
――親しみやすさと、音楽的な面白さを両立させるために、どのような工夫をされていますか。
皆さんが知っている曲を、どのように面白く変化させるかを考えています。
ただ分かりやすくするだけでは、音楽が単純になってしまいます。聴いたときに「甘い」「酸っぱい」「苦い」と味の違いが分かるような親しみやすさを持たせながら、そこに複雑さを加え、どのように深みをつくるかが大切です。一方で、工夫を重ねすぎると、お客様から「重い」「凝りすぎている」と言われることもあります。実際に、アレンジを凝りすぎてしまい、それ以来演奏していない曲もあります。どこまで変化させれば面白くなり、どこからが重くなるのか。その加減はとても難しいですね。お客様の反応やアンケートを受け止めながら、少しずつ調整しています。
15年続いたからこそ、大きくなった期待
――15年間続けてきた中で、始めた頃から変化したことはありますか。
活動を始めた頃は、このグループに対する期待は、今ほど大きくなかったのではないかと思います。
その後、少しずつお客様に来ていただけるようになり、演奏の依頼をいただく機会も増え、CDも制作しました。そうして「京都しんふぉにえった」という名前を知っていただけるようになると、「これぐらいはできるでしょう」という期待も大きくなっていきます。それは、演奏や企画の内容だけでなく、集客に対する期待も同じです。「朝からクラシックなら、お客様が入って当然」と見られることもあります。15年間続き、活動が大きくなったからこそのプレッシャーは、確かにあります。
続けていくためには、常に新しい曲や企画をつくり、よりよいものをお届けしなければなりません。ただ、新しい曲をつくるだけではありません。10年前に編曲した曲をもう一度取り出して、「今なら、ここをもう少し変えられるのではないか」と手を加えることもあります。
私自身、編曲の技術は当時よりも上がっていると思います。以前のアレンジを見直し、前奏の長さや曲の展開、場面の色が青から赤へ変わるようなドラマを加えて、「きちんと仕上がった」と思うこともあります。ところが、演奏後にお客様から「前のアレンジのほうが好きだった」と言われることもあるんです。こちらとしては工夫を重ね、よくなったと思っていても、以前の演奏を大切に覚えてくださっている方がいます。
そこには、15年続けてきたからこその難しさがあります。同時に、それほど長く聴き続けてくださるお客様がいるということでもあります。
お客様の声が、次の演奏につながっていく
――お客様の声が、実際のプログラムに反映されることもあるのでしょうか。
はい、あります。毎回のアンケートなどでいただいたご意見に対して、少しずつ応えていきたいと思っています。
以前、演奏の合間のトークで、「この曲は、毎回“演奏してほしい曲”として名前が挙がっていた曲です」と紹介してから演奏したことがあります。公演後、あるお客様が「実は、ずっとその曲をリクエストしていたのは私なんです」と声を掛けてくださいました。
お客様の声を受けて曲を演奏し、それを聴いたお客様が、今度は感想や新たな思いを届けてくださる。そうしてお客様とのつながりが少しずつ広がっていくことは、とてもうれしいですね。
演奏者とお客様の距離が近いコンサート
――これまでの公演で、特に印象に残っている出来事はありますか。
「朝からクラシック」は、オーケストラの演奏会とは少し違い、お客様との距離が近いコンサートだと感じます。私は特別なことをしているつもりはなく、普段どおりに演奏し、お話をしているだけなのですが、お客様は演奏者をとても身近に感じてくださっているようです。
10年以上前になりますが、どこで電話番号を調べられたのか、私の携帯電話にお客様から直接お電話をいただくこともありました(笑)。「いつも朝からクラシックを聴いています。この間の演奏がよかったです」と、感想を伝えてくださる方もいらっしゃいました。
なかでも忘れられないのは、「主人が亡くなりました」とお電話をくださった方です。その方のご主人は「朝からクラシック」が大好きで、奥様はいつもご主人に付き添うような気持ちで来場されていたそうです。けれども、一緒に通ううちに、奥様にとっても大切なコンサートになっていたのかもしれません。ご主人が亡くなられたことをご報告くださり、「このコンサートを楽しみにしていました」とお話ししてくださいました。
お会いしたことのない方から、人生の大切な出来事についてお電話をいただく。そのことに驚くと同時に、お客様にとってこのコンサートが、それほど身近な存在になっているのだと感じました。
公演後には、京都市交響楽団宛てにお手紙をいただくこともあります。お客様から温かい言葉をいただけることは、本当にありがたいです。

何か月も先の公演を、楽しみに待ってくださっている
――お客様の熱意に驚いたこともありますか。
以前、MC中に私がチケットの発売日を一日早く間違えて案内してしまったことがあります。公演はまだ何か月も先でしたので、「どこかでもう一度確認してくださるだろう」と軽く考えていました。ところが、誤って案内した日に実際にお客様が呉竹文化センターへ来られ、会館にご迷惑をお掛けしてしまいました。もちろん、こちらのミスですので、現場では申し訳ない出来事でした。ただ、それと同時に、「お客様は、こんなにも次の公演を楽しみにしてくださっているんだ」と、改めて気付かされました。
何か月も先の公演や、発売日を覚えて待っていてくださる。その思いに応えていかなければならないと感じます。
朝の公演ならではの緊張感
――15年間、大きなハプニングはありましたか。
幸い、大きなトラブルはありません。ただ、朝の公演ならではの心配は、今もずっとあります。午前10時30分の開演でも、リハーサルのためには、朝8時30分には会場へ到着していなければなりません。そこから逆算すると、メンバーは7時台、遠方から来る場合はさらに早い電車に乗る必要があります。特に冬は、雪による交通機関の乱れが心配です。前日に大雪が降ったりすると、メンバーが無事に会場へ到着できるか、毎回どきどきします。場合によっては、前日から近くに宿泊してもらうこともありました。そうした緊張感はありますが、これまで大きなトラブルなく続けてこられたことは、ありがたいことだと思います。
また、「懐かしの映画音楽」を取り上げたときには、普段よりもさらに高い年齢層のお客様が多く来てくださいました。一生懸命に会場まで足を運んでくださる姿を見ていると、「私たちが朝早いと言っていてはいけないね」と、メンバー同士で話すこともあります。

15年かけて育ててきた「ロマンティック・クリスマス・メドレー」
――12月9日の公演「アレンジで贈るロマンティック・クリスマス!」の聴きどころを教えてください。
今回演奏する「ロマンティック・クリスマス・メドレー」は、「朝からクラシック」が始まった頃の2012年12月公演から演奏している曲です。ただし、初演当時から全く同じ形で演奏しているわけではありません。演奏するたびに、「ここはもう少し変えたほうがいい」「この部分はうまくいっていない」と見直し、少しずつ手を加えてきました。つまりこのメドレーは、「朝からクラシック」とともに育ててきたアレンジなんです。今回の15周年公演にふさわしい一曲として、ぜひ聴いていただきたいと思います。
もちろん、ほかの曲にもそれぞれ聴きどころがあります。アンダーソンの「そりすべり」では、打楽器の中山君が活躍します。彼がメンバーになった頃、「中山君なら、どのように演奏すれば面白くなるだろう」と考え、鈴を足に付け、身体全体を使って表現するような演奏を取り入れました。私がアレンジで求めたことに対して、本人がさらに工夫を加え、プラスアルファの表現をしてくれています。耳で聴くだけでなく、目でも楽しんでいただける曲です。
また、現在アレンジを進めているハーラインの「星に願いを」は、原曲の構造がとてもシンプルです。限られた旋律を使いながら、どのように展開させ、何度演奏しても面白く聴こえるようにするのか。そこは、当日のお楽しみにしていただきたいですね。
まだ来たことのない方にも、気軽に足を運んでほしい
――最後に、これまで来場されたことのない方へ、メッセージをお願いします。
「朝からクラシック」は、演奏者とお客様との距離が近く、気軽にお越しいただけるコンサートです。そして、呉竹文化センターと「京都しんふぉにえった」が一緒につくり、15年間、地域の中で温めてきたコンサートでもあります。
せっかくここまで続けてきたからこそ、まずは近隣の皆さんに、「朝からクラシックなら知っているよ」と言っていただけるような存在になりたいと思っています。まだお越しになったことのない方にも、ぜひ一度、足を運んでいただきたいです。
皆さんに温かい気持ちで一日を始めていただけるようなコンサートを目指しています。ちょっと素敵な朝のひととき、ここでしか聴くことのできない9人のアンサンブルを、どうぞ気軽にお楽しみください。


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